楽曲のパクリの判断(パート1)
こんばんは。自粛期間に普段よりもじっくりと音楽を聴くようになり、最近は自分の青春時代の90年代のHR/HMアルバムを中心に聴いています。
そんな中で、Ozzy Ozbourne(オジー)の“No More Tears”のアルバムの“Zombie Stomp”を聴いていて、「この曲のギターのリフってArmored Saint(アーマード・セイント)の“Symbol of Salvation”のアルバムの“Tribal Dance”のリフにちょっと似てね?」と思いました。
皆様は、どう思いますか。参考として、それぞれの曲に対応するSpotifyのリンクを貼りましたが、曲の一部しか視聴できませんので、少し判断しにくいかもしれませんが、あしからず m(_ _)m
まずは、オジー。
次に、Armored Saint。
音楽のパクり事件の場合、ある曲が、既存の曲の完コピであることが明らかであれば、問題は比較的解決し易いですが、ほとんどの事件の場合、そう簡単に解決しません。
完コピの曲だけでなく、アレンジが施された曲など少し似た感じの曲が著作権の侵害事件に発展することも少なくありません。
音楽に限らず、作品のパクりに関連する著作権の侵害事件でメインとなる争点は、①同一性・類似性(他人の著作物と同一・類似していること)と②依拠性(他人の著作物を元にして著作物に依拠していること)になります。
オジー側がパクったかどうかの話は、一旦置いておいて、本日は、音楽のパクり事件での第1争点「楽曲の同一性・類似性」について簡単に説明するとともに、曲をパクった人に対し、日本の裁判所に訴えを提起する場合に、「同一性・類似性」を証明していくために、どのような証拠を準備すべきかについてお話をします。
まず、楽曲の「同一性・類似性」を判断するにあたり、裁判所は、「楽曲の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか否か」を判断します。例えば、「ある曲がメタルバンドAの〇〇という曲に似ているな~」と感じたとしても、似ていると感じた部分が、メタル界では、ありきたりのリフ等の表現であれば、必ずしも「曲の同一性・類似性」の要件をクリアしたことになりません。デスメタルの曲を比較する場合に、いずれともブラストビート(テンポ)で共通していても、ブラストビートはデスメタル界では当たり前な表現なので、ブラストビート(テンポ)の共通点は、デスメタルの曲を対比する上ではあまり大きなウェイトを占めません。あくまでも、曲の創作性(オリジナリティ)のある部分が似ているかどうかがポイントになります。
一般に、曲を構成する3つのメインの要素は、「メロディ(旋律)」、「ハーモニー(和声)」、「リズム」とされていますが、裁判所は、これらの要素を総合的に考慮しつつも、「メロディ」を重視する傾向にあります。一般に、「ハーモニー」、「リズム」、「テンポ」等は、単独で楽曲として認識されないのに対し、「メロディ」は、単独で楽曲として認識されるので、「メロディ」が共通すれば、曲の表現上の本質的な特徴が共通する可能性が高いというロジックだと思います。
よって、裁判での証拠を準備するにあたり、どれだけ説得力をもって「メロディ」が相手方のメロディに似ているかを証明することが裁判の勝敗を決する上で重要になるかと思います。
まず、音楽は譜面で表されますので、パクった側の曲とパクられた側の曲を対比できる譜面を用意すると良いです。形式に決まりは無いですが、例えば、上段にパクられた側の曲の最初の4小節を書いたら、その下段にパクった側の曲の最初の4小節を書くという形で、4小節単位で上下に交互に表し、両者の曲を対比し易いように書きます。イメージ的には、以下の感じです(譜面はテキトーに書いたもので、オジーらの曲では無いです)。
また、共通点・相違点を分かり易くするために、共通する音符と相違する音符を色分けするのも効果的です。
更に、「メロディ」だけを対比するためのグラフを用意するのも効果的です。裁判官が必ずしも譜面を読めるとは限らず、譜面には曲の全ての情報が詰まっていますので、「メロディ」が似ていても、譜面で表すとそれほど似ていないように素人に見えることもあり得ます。よって、曲の重要な要素である「メロディ」の共通点・相違点を素人が見ても分かり易くするために、以下のような折れ線グラフで「メロディ」を表すことも効果的です(グラフもテキトーに書いたもので、オジーらの曲では無いです)。それぞれの曲に対応する線が重なるほど「メロディ」が似ていることが視覚的に分かり易くなります。
更に、ピアノ等の楽器で「メロディ」だけを弾き比べたものを録音したものを用意することも効果的です。歌唱部分や演奏を取り除くことで、一層「メロディ」が似ているように聴こえることもあります。
以上、音楽のパクり事件での第1争点「曲の同一性・類似性」と裁判での証明方法について簡単に説明してきましたが、冒頭でのオジーの“Zombie Stomp”がArmored Saintの“Tribal Dance”に対して、パクリの問題になるかについての私の見解は、来週、第2争点「依拠性」について解説した後に、お話しようと思います。
本日もブログを読んでいただき、ありがとうございました。